◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆
                 
[ 消防法規制の設置・説明義務]

福祉施設開設目的で共同住宅の1室を賃借した事業者が、消防法上必要となる自動火災
報知設備の設置を賃貸人に求めたが拒否されたため、契約を解除し、賃貸人及びその代理
人の宅建業者に損害賠償を請求した事案において、契約内容から、貸主にはその設置義務
はなく、消防法の規制についても宅建業者は容易に知り得なかったとしてその請求を棄却
した事例(東京地裁 令和元年7月4日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)

1 事案の概要
借主召蓮∧神28年6月、障害福祉サービス事業兼事務所として、Y1が所有する共同
住宅の1室を月額賃料17万円余で借り受ける賃貸借契約を締結した。なお、本件契約に当
たっては、Y1の管理会社である宅建業者Y2がY1の代理人として契約手続を行った。
本件契約後、召消防署に防火対象物使用開始届出書を提出したところ、本件建物は共
同住宅特例に基づいて「開放廊下型共同住宅」として一部の消防用設備等の設置が免除さ
れたものであり、Xの入居により本件建物の用途が共同住宅から複合用途対象物に変更さ
れて前記特例が適用されなくなるため、建物全体に自動火災報知設備を設置しなければ事
務所としての利用は許されないと消防署から指摘された。
そこでXは、貸主Y1に自動火災報知設備の設置を求めたが、Y1は、500万円前後の
費用がかかるとしてこれに応じなかった。
Xは、平成29年3月、本件貸室を退去した後、「Y1は本件契約上、使用収益させる義
務の内容として本件建物全体に自動火災報知設備を設置する義務を負っていた。Y2は本
件契約の締結に際し、消防法の規制について調査・確認し、その結果を説明する義務を負
っていた。」として、両者に対して、467万円余の損害賠償請求訴訟を提起した。
これに対してY1は、「本件貸室を使用収益させる義務を負っていても、Xの事業施設
の運営に必要な許認可を得させる義務までは負っていない。」と主張し、また、Y2は、
「宅建業者に消防法違反の有無などを調査・確認すべき義務はない。」と主張した。
 2 判決の要旨
 裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。
(Y1の債務不履行責任について)
本件貸室を居住目的以外に用いる場合には、消防法等に基づき本件建物全体に自動火災
報知設備を設置する必要があり、同設置を行わない限り、本件契約で定められた障害福祉
サービス事業兼事業所との目的での本件貸室の使用はできないことが認められるが、貸主
が借主に対して前記設備の設置義務を負うかについては、本件契約の具体的な交渉経過や
契約内容、設備設置費用等の諸事情を総合的に考慮して、これが 本件契約の合意内容とな
っていたかという観点から検討すべきである。
X自身、本件契約以前から、障害福祉サービス事業等を営むためには消防法等を含めた
種々の法規制があることを認識していたが、本件契約の交渉過程においても前記規制や設
備等について協議したり、同目的での利用可能性を検討した形跡はなく、結果的に本件契
約の契約書等にも前記規制や設備等に関する特段の記載はなかったことが認められる。
また、本件建物全体に自動火災報知設備を設置するための費用は約500万円前後を要
し、月額賃料17万円余との比較においても相当高額であることが認められる。
   加えて、消防法等の関係法令において、消防用設備等の設置、維持の義務を負うとさ
れる「関係者」は、防火対象物の所有者、管理者又は占有者であり、法律等の規定上、必
ずしもY1のみが前記設置の義務を負っているものとは解されない(消防法2条4項、
17条1項、消防法施行令7条、21条)。
したがって、Y1がXのために前記設備を設置することが本件契約の合意内容になって
いたとは認められず、その設置義務はない。
(Y2の不法行為責任について)
Y2は、貸主であるY1の代理という立場で本件契約に関与した宅建業者である以上、
借主の使用目的を認識し、かつ、本件建物を当該目的で使用するにあたって法律上・事実
上の障害があることを容易に知り得るときは、その旨説明する義務を負うものと解され
る。
Y2は、一般論として、消防設備がない場合には、前記用途で本件貸室を使用すること
はできない旨認識していたものの、本件契約当時、本件建物が共同住宅特例により自動火
災報知設備が免除された建物であるとまでは認識しておらず、また、前記の通り、Xから
消防法等の規制や消防設備等について言及されることはなく、前記観点から本件貸室の設
備や状況等を確認調査する契機となるような事情はなかった状況であるから、Y2が宅建
業者であっても、あらゆる公法上の規制等を調査確認する義務があるとまではいえない以
上、Y2において、Xの目的である障害福祉サービス事業を営むには許認可の関係で法律
上の障害があることを容易に知り得るものであったとは認め難い。
したがって、Y2にはXが主張するような消防法の規制等についての説明義務違反があ
ったとは認められない。
3 まとめ 
 消防法や地域の条例等に抵触するために購入または賃借した目的を達せられないとする
紛争がしばしば見受けられます。
宅建業法35条1項2号及び施行令3条に列挙された法令は例示列挙であり、それ以外の
法令等であっても取引の相手方から特別に調査を依頼されて引き受けた場合や、利用目的
に照らして制限がかかることが容易に把握できる場合については、宅建業者に説明義務が
課される場合が有り得ます。
媒介業者の業務の範囲は、不動産の取引に関するものであって、他の専門的な知識(建
築・税務等)が必要とされるものについては、依頼者より直接専門家に確認する必要があ
ることを依頼者にアドバイスし、理解してもらうことが重要です。
なお、媒介業者の調査説明義務を認めた事例として(東京地判平 28・3・10 RETIO106-
114 、東京地判平29.11.27 RETIO113-138)、否定した事例として(東京地判平
22.3.3RETIO78-98 )などがあるので併せて参考にしてください。