◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

[ 融資特約の助言義務]

買主がフラット35の融資を利用する予定を知りながら、融資特約を設定・助言する義務

を怠った等として、買主が媒介業者に対して媒介契約の債務不履行による損害賠償を求め

た事案において、媒介業者に義務違反は認められないとして買主の訴えが棄却された事例

(東京地裁 平成30年11月13日判決 ウエストロー・ジャパン) 

1 事案の概要

買主X(原告)は、既存マンションからの住み替えのため、平成28年11月、媒介業者Y

(被告)の媒介により、売主Aとの間で中古マンション(旧耐震基準)を3,450万円で購

入する売買契約を締結し、Aに手付金180万円を支払い、Yに約定媒介報酬の半額となる

53 万円余を支払った。

 また、売買契約の締結に先立ち、Xは、Yから提示された売買契約書案では融資特約が

付されていなかったため、融資特約を設定するよう要望したが、これについてAが、金融

機関の事前審査の承認を得てから契約して欲しいと反対したことから、融資特約は設定さ

れずに本件売買契約が成立した。

本件売買契約成立後、本件マンションは旧耐震基準の建物であり、フラット35の耐震評

価基準を満たしていないことが判明した。

そのため、Xは、B銀行のフラット35の融資については、融資を受けることができない

こととなったが、C銀行からは通常のローンにて2,300万円の融資承認が得られた。

しかし、本物件の購入意思がなくなったXは、Aに錯誤無効により本件売買契約を解除

する旨の意思表示を行い、その後、調停により、Aとの間では、手付金180万円の内、解

決金として25万円をAがXに支払う旨の和解が成立した。

そのうえでXは、Yに対し、(1) Xの資金計画を誤認し、Xの明示的な指示に反して、X

とAとの間の売買契約に、適切な融資特約を設定しなかった、(2) Xがフラット35の融資を

利用する予定であることを知りながら、フラット35の適合性の事前審査を取り次いだり、

フラット35の融資を受けられなかった場合に売買契約を解除できる旨の融資特約を設定す

るように助言しなかった,(3)融資の承認が得られた時点で売買契約を締結したいというA

の意向をXに報告しなかったなどと主張して、媒介契約の債務不履行による損害賠償とし

て、208万円余(XがAに支払った手付金180万円から調停によりAから返還された25万円

を控除した155万円と、XがYに支払った媒介報酬53万円余の合計額)の支払を求めて提

訴した。 

2 判決の要旨

 裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。

(Xが主張する融資特約の内容)

 上記(1)のXが主張する融資特約とは、XはYから買取保証を受けていたこと、C銀行か

ら融資承認を受けていたこと等からすると、「フラット35を利用した融資を受けなければ、

本件売買契約を解除できる」という特約と解される。

(フラット35を利用した融資を受ける必要性の伝達の有無)

本件証拠上、Yから本件マンションがフラット35の耐震基準を満たさず、不適合である

との通知を受けた後も、B銀行から2,300万円の融資の承認が得られたとして、本件売買

契約の残金の支払を履行する意向を示したこと、本件マンションは旧耐震基準の建物であ

ることは、重要事項説明書に記載されていたが、本件売買契約締結前に、フラット35を利

用する場合に問題となり得る耐震性等が話題となった事実は見当たらないことなどからす

ると、XがYに対し、本件売買契約締結前に、本件売買代金の調達のためにフラット35を

利用することを伝えていたとは認められない。

(フラット35に関する融資特約の設定・助言義務違反の有無、フラット35の事前審査に関

する助言・取次義務違反の有無)

以上のように、XはYにフラット35を利用することを伝えていたとは認められないた

め、Xから、融資特約を付加するように要望があったとしても、Yには、フラット35の融

資を受けられなければ解除できる旨の融資特約を設定したり、そうすべきと助言したりす

る義務があったとは認められない。

また、同様の理由から、Yに本件マンションの適合証明を得られるかどうか、本件売買

契約締結前に照会するよう助言したり、事前審査の取次を行ったりすべき義務を認めるこ

とはできない。

(Aの意向をXに報告する義務違反の有無)

 Xが融資を受ける予定であることを知りながら、結局は、Xが融資の承認を得たことを

確認せずに、本件売買契約を締結したことからすれば、Aの真意は、売主の地位を不安定

にする融資特約を入れたくないということにあったのであって、金融機関の事前審査の承

認を得てからではないと契約を締結したくないというものではなかったと解するのが相当

である。

したがって、Yは、媒介者として、Aが融資特約を設定することに反対しているという

ことを伝えれば足りるというべきである。

3 まとめ

買主がローン特約を特に排除する場合は別として、媒介業者は、買主の資金計画を確認

し、融資を利用することが分かれば、融資を否認された場合に備えたローン特約を盛り込

む必要があります。

もし、媒介業者がこれを怠りローン特約条項を設けなかったり、ローン特約条項(金融

機関、融資額、返済条件等)が曖昧であるため、買主が無条件で売買契約を解除できず、

違約金等の支払を余儀なくされた場合には、媒介業者は賠償責任を負うこととなります。

(参考: 大阪高裁H12.5.19 RETIO47-61、東京地裁 H24.11.7 RETIO90-136)

本件は、一般的なローン特約条項の設定・助言義務でなく、フラット35に係るローン特

約条項の設定・助言義務が争われたものであり、事案判断により、その義務がないとされ

たものですが、いずれにしても、ローン特約条項の設定・助言義務に関しては紛争になる

場合が多く、媒介業者としては、紛争の未然防止の観点から、売主、買主に対して丁寧な

説明を行うことが重要です。