[決済の延長と融資特約 ]

土地建物の売買契約の決済期限が買主都合により3度延長された後に、売主が買主に対

し、履行遅滞による契約解除及び違約金を求めたのに対し、買主が融資解除特約による契

約解除を主張した事案において、融資解除特約は決済期限延長の際に効力を失ったと解さ

れるとして、売主の請求を認めた事例(東京地裁 令和元年611日判決 ウエストロ

ー・ジャパン)

 

1 事案の概要 

 

平成3021日、買主Y(被告:宅建業者)は、本件土地建物について、売買契約後

に第三者に買主の地位を移転させる目的で、売主X(原告:個人)が依頼した媒介業者Aの

媒介により、Xとの間で下記内容の売買契約(本契約)を締結した。

<本契約の概要>

・売買代金:9800万円、手付金:100万円

違約金:980万円、決済期限:同月28

・融資解除特約:同月27日迄に、買主が融資について承認を得られない場合、契約は自動

的に解除となる。

・第三者のためにする契約の特約:Xは、本件土地建物の所有権をYの指定する者に対し、

売買代金全額の支払いを条件として直接移転する。

 

 本契約締結後、Yが指定する第三者は融資申込を行ったが、金融機関の承認を得られず決

済が困難となったことから、同月26日、Yは、Aを介してXに、決済期限の同年330

までの延長を依頼し、その了解を得た。

Yは、Aに、228日に契約書を修正したいことを伝え、34日に手書きで修正した契

約書を送付して再度契約書を作成・返送するよう求めたが、X及びAは本契約について新た

な契約書を作成することはなかった。

328日、Aは、Yより、前の買手がだめになったため決済期限を 416日まで延長し

てほしい旨の申入れがあったため、Aは、Xに連絡して了承を得て、その旨をYに連絡した。

49日、Aは、Xの同意を得た上で、 本契約の残代金が416日までに支払われなけれ

ば、Xは本契約を解除し、違約金を請求する旨の内容証明郵便を司法書士に作成してもらい、

Yに送付した。

420日、Aは、Yとの打合せにおいて、購入希望客があり融資申込結果が来週には決

まると聞いた。Aは、当該金融機関に確認を行い、審査結果は条件付きで出ているとの話を

聞き、融資承認の可能性もあると考え、Xに連絡をして、5月末日までの決済期限延長につ

いて了承を得た。

517日、Aは、Yより、決済期限の 6月末までの延長を求められたが、523日まで

に中間金を入れるか、融資承認書を提出しなければ、延長には応じられないと回答した。

 68日、Xは、Yに対し、本契約について債務不履行を理由に解除するとの意思表示を

行い、その後、約定違約金の残額880万円を求める本件訴訟を提起した。

Yは、本契約は融資解除特約により、227日に自動解除されているとして、手付金100

万円の返還を求める反訴をした。

 

2 判決の要旨

 

 裁判所は、次のとおり判示し、 の請求を認容し、Yの反訴を棄却した。

 

(融資解除特約による解除)

  本契約については、決済期限を330日とする契約書は改めて作成されなかったが、Y

とXとの間において、決済期限を228日から330日に延長することについて合意があっ

たと認めるのが相当であり、227日が経過した時点でも、本契約は、融資解除特約によ

る当然解除がなされないまま、決済期限が延長されたとみるのが相当である。

Yは、227日の経過をもって、融資不成立により本契約は自動解除され、その後本件

土地建物の売買契約は締結されていないと主張するが、YのXに対する融資解除特約によ

る契約解除の通知はなく、228日以降も、Yも決済期限以外は、本契約が継続している

ことを前提にした行動をとっていること等から、Yの主張は採用できない。

 

(決済期限の延長と融資解除特約の効力)

 融資解除特約は、買主が金融機関から融資の承諾が得られなかった場合に、買主がペナ

ルティを支払うことなく契約を解除できるという特約であり、売主にとって不利益な特約

であることは明らかである。

そうすると、本件のように、買主の都合により決済期限が延長された場合に、融資解除

特約の期限も同様に延長されるかどうかについては、改めて、売主から明確な合意があっ

たといえる場合でなければ、効力を失うとみるのが相当である。

これを本件についてみれば、決済期限の延長は、Xは合意しているものの、融資解除特

約については特に承諾を与えているとはいえないし、融資解除特約についても延期するこ

とを前提にした行動をY及びAがとっていたと認めることもできない。

したがって、本契約の融資解除特約は、決済期限が228日から3月 30日に延期された際

に、その効力を失ったと解するのが相当である。

 

  (結論)

 本契約は、融資解除特約による自動解約ではなく、Yの履行遅滞を理由に、Xにより解

除されたものであるから、Xの請求については理由があるからこれを認容し、Yの反訴請

求については理由がないから、これを棄却する

 

3 まとめ

 

 本判決では、買主の都合により決済期限が延長された場合に、融資解除特約の期限も同様

に延長されるか否かについて、売主から改めて明確な合意があったといえる場合でなけれ

ば、効力を失うとみるのが相当であると判示しています。

本事案は、買主は宅建業者であり、媒介業者が介在しているにもかかわらず、決済日の延

期に当たって、売主と買主の間で、覚書等も一切取り交されておらず、そもそも適正な手続

を欠いた事案と言えるが、決済日の延期に当たっては、トラブル防止の観点から、売主と買

主の間で、融資解除特約等の関連する契約条項を含め、契約の変更内容の確認を行い、少な

くとも、覚書の取交し等により明確化しておくことの重要性を再認識させる事案です。