[建物用途の説明義務 ]◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

 マンションの一室を賃借したが、目的とするエステサロンの営業ができなかったとして

借主が媒介業者に損害賠償を請求した事案において、媒介業者は住居専用であることを説

明したとして、その請求を棄却した事例(東京地裁 平成3036日判決 ウエストロー・

ジャパン)

 

1 事案の概要


 平成246月、賃借人Xは媒介業者Yの営業所を訪れ、同月、Yの従業員であるAと共

aマンション(本件建物)の1002号室(本件貸室)を内覧した。

 平成24629日、Xは、本件貸室について、Yの媒介により、所有者との間で、契約

期間を平成2476日から2年間、賃料を155,000、敷金を1か月分、礼金及び

保証金を0円とする賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。

 同日、Aは、本件賃貸借契約の締結に当たり、賃貸借契約書(本件契約書)及び重要事項

説明書(本件重要事項説明書)を作成して、Xに対し、重要事項の説明をした。

 本件契約書の使用用途欄には「居住用」、131号の欄には禁止事項として「使用用途以

外の目的で本件貸室を使用すること」と記載され、本件重要事項説明書の賃貸用途欄には

「居住用」、用途制限欄には「居住用以外の用途 無」、「事業用の業種制限 無」と記載さ

れており、Xは、本件賃貸借契約の締結に当たり、上記各書面に署名押印した。

 その後Xは、本件貸室内においてエステサロンの営業を行っていたが、平成252月な

いし3月頃、本件建物の管理組合から、本件貸室における営業を停止するよう通知を受け、

平成256月末で本件貸室内におけるエステサロンの営業を終了した。

 Xは、

(1)Aは、Xが本件貸室の内覧をした後、「営業をするにはオーナーの了承が必要です」と述

べ、その数日後、Xに対し、「オーナーのOKが出ました」と伝えた。

(2)平成24629日、AXに対して重要事項の説明をした際、店舗の営業はできない

ことや、居住用以外の用途が認められないことを一切説明せず、Xは、本件重要事項説明書

の用途制限欄に事業用の業種制限がないという箇所を確認した。

と主張して、Yに対し、説明義務違反による損害賠償として、827万円余を請求した。

 これに対し、Yは、

(1)Aは、Xから住居兼エステサロンとして利用する貸室を探していることを聞き、Xに対し、

「店舗可の居住用物件は非常に珍しく、希望に沿う物件を提案することはできない。居住用

物件では不特定多数の人間が出入りするような店舗としての利用はできない」との説明を

明確に行った。

(2)AXに本件貸室を提案する際、改めて、本件貸室が居住専用の物件であり営業はでき

ないことを説明し、Xの確認を得ている。さらに、YXに交付した本件契約書及び本件重

要事項説明書には、本件貸室は居住専用で営業はできないことを明示している。

と、反論した。

 

2 判決の要旨


 裁判所は次の通り判示し、Xの請求を棄却した。

(1)Xが、本件賃貸借契約の締結に当たり、使用用途が居住用で、使用用途以外の目的で本

件貸室を使用することが禁止されていることが明記されている本件契約書に署名し、賃貸

用途欄に「居住用」、用途制限欄に「居住用以外の用途 無」と明記されている本件重要事

項説明書に署名していることに加え、Xは、その本人尋問において、Aから重要事項説明を

受けた際、上記賃貸用途欄や用途制限欄の記載も含めて本件重要事項説明書を示されて、そ

の内容を読み上げられたと供述していることからすると、Xの陳述書及び尋問における供述

をもって、Aが重要事項説明の際に、本件貸室で店舗の営業ができないことや、居住用以外

の用途が認められないことを一切説明しなかったなどということができないことは明らか

である。

(2)仮に、Xが、Aから重要事項説明を受ける前に、本件貸室で営業を行うことを前提に、本

件貸室で営業をするために必要な所有者の了解を得たなどと聞いていたのであれば、Aによ

る重要事項説明の内容は、Xが事前に聞いていた賃貸用途とは全く異なるものであるから、

重要事項説明を受けた際、Aに対し、本件重要事項説明書の賃貸用途欄や用途制限欄の記載

について質問したり異議を述べたりしてしかるべきであるにもかかわらず、Xの本人尋問に

おける供述によれば、本件重要事項説明書の「事業用の業種制限 無」との記載部分につい

てのみ質問し、その余の居住用と明記された賃貸用途欄や、「居住用以外の用途 無」と明

記された用途制限欄の記載を示されて読み上げられても、その説明について何ら疑問を抱

かず、質問もしなかったというのであるから、その供述内容は不自然であると言わざるを得

ない。

(3)このように、その内容に不自然な点を含んでおり、かつ、何ら客観的な裏付けのないX

本人の供述をもって、Xが、Aから重要事項説明を受ける前に、本件貸室で営業をするため

に必要な所有者の了解を得たとの説明を受けていたと認めることはできず、他にこれを認

めるに足りる証拠もない。そして、AXに対して、前述のとおり重要事項説明を行ってい

たことからすると、Yが本件媒介契約に基づく説明義務に違反したと認めることはできない。

 

3 まとめ


 居住用マンションの使用用途を巡っては、共同の利益に反する行為を行う区分所有者と

これをやめさせたい管理組合との紛争が多く見受けられます。本件では使用用途に関する

媒介業者の説明義務違反はなかったと判断されましたが、管理規約の調査説明義務違反に

より媒介業者が処分された事例(RETIO104-97も見られます。

 トラブルを避けるためには、媒介業者としては、借主の利用目的を確認し、管理組合へも

使用用途を確認した上で重要事項説明に明記する等、適切な対応が重要でしょう。