[中古ビルの瑕疵担保責任]

買主が瑕疵と主張する建物の不具合は、中古ビルにおいて通常生じうる経年劣化であると

して、買主の賠償請求を棄却した事例

 購入した中古ビルに、外壁の爆裂や雨漏り等の瑕疵があったとして、買主が売主に対し、

売買契約の瑕疵担保責任条項等により損害賠償を求めた事案において、買主が瑕疵と主張

する建物の各不具合は、中古ビルにおいては通常生じうる経年劣化であるとして、その請求

を棄却した事例(東京地裁 平成28年7月14日判決 請求棄却 ウエストロー・ジャパン)

1 事案の概要

 平成26年6月、買主X(原告・個人)は、媒介業者Aの媒介により、売主Y(被告・法

人)との間で、築23年を経過する6階建オフィスビル(本件建物)につき、代金を16800

万円とする売買契約を締結した。同年9月、XはYより本件建物の引き渡しを受けたとこ

ろ、

イ)外壁の爆裂

ロ)5階の雨漏り

ハ)1階排水管の漏水

ニ)4階居室内の手すりの取付部分の緩み

ホ)4階リビングのクレセントの脱落

ヘ)4階ベランダの水道管の腐食

の不具合を発見した。

 Xは、これらの不具合は瑕疵でありYには、

(1)売買契約の瑕疵担保責任条項に基づく賠償責任がある。

(2)Yは本件建物内各居室の不具合を見せず、エレベーター保守管理契約の契約条件を提供

 しないなどの説明義務違反がある。

(3)平成2611月までには、瑕疵の存在を認めその補修を約したのに履行しなかった債務

 不履行がある。

として、Yに対し、Xが当該不具合の補修に要した費用等385円余の賠償を請求する本件

訴訟を提起した。

 これに対してYは、

(1)本件建物は築23年の中古ビルであり、Xが瑕疵として主張する部分はいずれも通常の

 経年劣化によるものである。

(2)YはAに媒介を依頼して重要事項説明等の業務を委ねたのであるから、Xに対する説明

 義務は負わないし、Xから求められた説明を拒んだこともない。

(3)Yは平成27年1月までにはXの要望する補修工事を行いたい旨を伝えていたが、Xは

 これを了承しなかった。これは履行の提供を拒絶されたというべきものである。

と反論した。

2 判決の要旨

 裁判所は次のように判示して、Xの請求を棄却し、訴訟費用は全額Xの負担とした。

(1)本件建物の瑕疵の有無について

 Xは、本件建物には複数の瑕疵が存在すると主張するが、証拠によれば、それらはいずれ

も瑕疵とは認められない。

イ)外壁の爆裂は、重大なものとは言い難く、築23年の中古ビルにおいては通常生じう

  る経年劣化によるものと考えられる。

ロ)5階の雨漏りは、漏水が生じていたことは認められるが、その詳細までは判然とせず、

 防水機能の低下が原因であったとしても、経年劣化として合理的に理解できるもの

 である。

ハ)1階排水管の漏水は、その有無及び状況は判然とせず、漏水が生じていたとしても、

  経年劣化として合理的に理解できるものである。

ニ)4階居室内の手すりの取付部分の緩みは、これが生じていることは認められるが、経

  年劣化の限度を超えて瑕疵と評価すべきものであるとは認められない。

ホ)4階リビングのクレセントの脱落は、経年劣化として合理的に理解できるものである。

ヘ)4階ベランダの水道管の腐食は、経年劣化として合理的に理解できるものである。

 なお、Xに交付された物件状況等報告書には上記イ〜ヘの不具合はいずれも「発見してい

ない」との記載があるが、これはYが現在知っている売買物件の状況について説明したもの

であって、その記載内容が全て客観的事実に合致することを前提として取引内容が決定さ

れるものとは考えられないから、同報告書の記載が上記認定判断を左右するものではない。

2)Yによる説明義務違反の有無について

 Yは本件建物の売却について宅建業者であるAに委託していたのであるから、契約条件

に影響を及ぼしうる情報についての説明も第一次的にはAから行われることが想定されて

おり、これらの事項についてYは原則として説明義務を負っていなかったというべきであ

る。またYがXから求められた説明を拒んだり、ことさらに虚偽の説明をしたなどとの事実

の立証があったとも認められない。

3)事後的な補修合意の成否及びその不履行の有無等について

 認定事実によれば、Yが補修を約束したとの事実を認めることはできない。また、Yが業

者に依頼して本件建物の補修作業を行い、さらに追加工事を行う旨の申し出をしていたこ

とは認められるが、上記一連の行為は任意でのアフターサービスとして行われたものと

えるのが自然であり、YがXに対して瑕疵を補修する旨の合意に基づく法的な債務を負っ

ていたと認めることはできない。

3 まとめ

 本件は中古建物の売買において、買主指摘の不具合が、売主が担保責任を負う隠れた瑕疵

に該当するかが争われた事案です。

 瑕疵とは、売買の目的物が通常有すべき品質・性能を欠いていることを指し、隠れた瑕疵

とは、契約締結の当時買主が過失なくしてその存在を知らなかった瑕疵をいう(大審判大

13623 13(オ)101号)が、買主指摘の不具合が本件建物において瑕疵に該当するか

は、築23年を経過する中古建物として、通常有すべき品質・性能を有しているか、売主・

買主の間において本件建物がどのような性質を有することが予定されていたかについて判

断されるものであり、買主が瑕疵と主張する不具合がすべて経年劣化によるものとした本

件裁判所の判断は妥当なものと考えらます。

 また、「買主に交付された物件状況等報告書は売主が現在知っている売買物件の状況につ

いて説明したものであって、その記載内容が全て客観的事実に合致することを前提として

取引内容が決定されるものとは考えられない」との本件判示は、実務上参考になるものと思

われます。

なお、買主側にも現場での物件確認が重要であることを再認識させるものでもあります。