[瑕疵担保免責特約 ]

瑕疵担保責任に関する条文を破棄するとした特約は、特約を排除して民法の原則に委ねる

趣旨に解されるとした事例(東京地判 平28413 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

 買主X(原告・宅建業者)は、平成2412月、売主Y1被告・宅建業者)が所有する土

地付倉庫(本件土地建物)を分譲宅地として転売する目的で、Y2(被告・媒介業者)の媒介

により、売買代金28000万円で買受けた。

 Y2が作成した本件売買契約書の当初案の第17条には、瑕疵担保責任期間を1年とする等

の一般的な瑕疵担保責任に関する定めが記載されていたが、Y1Y2に「本件土地の状況は

調査しておらず、また本件建物は雨漏りがするので、Y1が本件土地建物について瑕疵担保

責任を負うことはできない。その旨、契約書に表記してほしい。」と申し入れた。このため

Y2は、本件売買契約書にY1から指示された以下の特約事項を挿入した。

 [特約事項(本件特約条項)]

 「第17条(瑕疵担保責任)の条文を破棄する、建物については現況建物で売買する。」

 なお、本件特約条項は、売買契約書には記載されていたものの、重要事項説明書には記載

されていなかった。

 Xは、本件土地建物を賃借していた賃借人が退去したことから、平成255月頃、本件

建物の解体工事や掘削作業を実施したところ、本件土地から、建物の基礎に用いる大型杭や

コンクリートの塊等の産業廃棄物が大量に発見された。

 Xは、その撤去及び土壌調査に計1,339万円余の支出を余儀なくされたとして、Y1に対

して民法570条に基づく瑕疵担保責任に基づく損害賠償を、また、Y2に対しても媒介契約

上の説明義務違反があるとして同額を求める本件訴訟を提起した。

 Y1は、本件特約条項は、本件土地建物の全部について瑕疵担保責任を破棄するという意

味であると反論した。

 


2 判決の要旨

 裁判所は、次のように判示して、XY1に対する請求を認容し、Y2に対する請求は棄却

した。

(瑕疵担保責任を免除する合意の可否)

 本件売買契約書の17条は、民法570条及び566条と比較すると、瑕疵修補請求ができる

旨が明示され、解除や損害賠償請求等の権利行使ができる期間が本物件の引渡し後1年に

限定されており、上記民法の条文の特約と位置付けられる内容になっている。

 本件特約条項は、これを破棄するというのであるから、上記のような特約を排除して民法

の原則に委ねる趣旨と解するのが自然であり、民法上の瑕疵担保責任を免除するというの

であれば、契約上これを明示するのが相当であり、本件特約条項をそのように解するのであ

れば、少なくとも重要事項説明書において記載の上買主に説明するか、記載しないのであれ

ば当事者(特に不利になる買主)に対して十分に説明の上合意をしておく必要があると解さ

れる。

 本件売買契約書の特約条項には、本件建物については「現況建物で売買する。」と付言さ

れていてその趣旨が示されているようでもあるが、少なくとも本件土地についてはその趣

旨が明示されているとは言い難い。

 また、証拠及び弁論の全趣旨から、Y2Xに対して、本件特約条項が本件土地について

瑕疵担保責任を免責する趣旨である旨を十分説明したとはいえないから、これをもって本

件土地について民法上の瑕疵担保責任を免除する特約としての効力を有するとは認められ

ない。

 

(媒介契約の成否)

 前記判示のとおり、本件特約条項は、本件土地に係る民法上の瑕疵担保責任を免除する条

項ということはできず、XY1に対して民法上の瑕疵担保責任を追及できる。

 たとえY2には、本件特約条項について十分説明しなかった事実が認められるとしても、

Xはこれにより何ら損害を被ることはないので、XY2に対する請求は、媒介契約の成否

や不法行為の成否について判断するまでもなく、理由がない。

 

(結論)

 よって、XY1に対する請求は理由があるから、Xが本件埋設物の撤去及び土壌調査の

ために支出した1,339万円余を瑕疵担保責任によりY1が負担すべき損害として全額認容

し、Y2に対する請求は理由がないから棄却する。

 


3 まとめ

 本件は、瑕疵担保責任に関する特約条項の解釈を巡って争われた事案です。

 土地の売買にあたっては、地中埋設物が問題となることが多く、その撤去費用も多額にな

ることから、売主・買主のリスク分配を明確にする上で瑕疵担保責任に関する条項は極めて

重要性の高い項目です。

 媒介業者においては、仮に双方が宅建業者であったとしても、トラブルを回避する観点か

ら、重要事項説明書や売買契約書への明確な記載や丁寧な説明を行うことが重要です。また、

その表現に懸念のある場合には、弁護士等に相談するべきでしょう。

 瑕疵担保責任に関する特約条項を巡る裁判例としては、「1年に限り売主は瑕疵担保責任

を負う」とした特約が商法526条(買主による目的物の検査及び通知)を適用しない合意を

したものと判断された事例(東京地判 平21414)もあり、参考にしてください。