窓先空地規制により駐車場利用ができないことの説明をしなかった売主業者の不法行為責

任が認められた事例(東京地判 平30711 ウエストロー・ジャパン)

 

 買主が、駐車場2台付きの賃貸収益物件であるとの広告を見て仲介業者の媒介により売

主(宅建業者)から新築アパートを購入したところ、駐車場の一台分が窓先空地規制により

賃貸できなかったことから、売主および仲介会社に対し、虚偽の広告により新築アパートを

売ったとして、損害賠償を求めた事案において、慰謝料のみを認めた事例

 


1 事案の概要

 

 売主Y1(被告、宅建業者)は、新築アパート(本件土地建物)を建築し、本件土地建物を

販売するに当たり、「駐車場1」・「駐車場2」との記載や車を2台駐車している平面図を作成

した。販売広告には、想定賃料としてワンルーム4室合計で25円、駐車場が2台合計で

4万円余、バイク置き場が4台合計で6千円余との記載があった。

 仲介会社Y2(被告、宅建業者)は、Y1から販売広告と平面図を受領し、平面図を転載し

た上で、「希少駐車場2台分付き」などと記載した販売広告を作成し、平成2712月、買

X(原告)に対し、本文に「駐車場2台付き」などと記載した物件を紹介するメールに添

付して送信した。

 Xは、同年同月、Y2の媒介により、Y1との間で本件土地建物を5680万円で売買する契約

を締結した。

 Xは、平成287月頃、駐車場1について警察所に車庫証明の申請をしたところ、同年

9月、現地確認した警察署の担当者から、東京都建築安全条例の窓先空地規制により駐車場

1には車庫証明の交付をすることができないとの回答を受けた。

 

[参考:本件にかかわる窓先空地規制の概要]

 東京都建築安全条例では、共同住宅における避難を容易にするために、1階住戸の窓に直

面する敷地部分は幅員1.5mの空地を設けて避難経路とし、物を置いたり駐車場として使用

することができないとされています。なお、この窓先空地の制度は、東京都や横浜市など

一部の自治体でのみ実施されている制度です。

 本事例は、駐車場1が窓先空地として建築確認申請がされた場所であるにもかかわらず、

「駐車場」であると記載した虚偽広告を作成して売主業者Y1が仲介業者に提供したことは

不法行為に該当し、仲介業者Y2においても、勧誘の前提となる広告の作成時に十分に調査

する義務に違反したことが不法行為に該当するして、XY1Y2に対し、駐車場1の経済

的価値409万円余、慰謝料200万円を求めて提訴したものです

 


2 判決の要旨

 

 裁判所は、次の通り判示し、XYに対する請求を一部認容した。

 

(1)本件土地建物は、Y1の販売広告にアパート4室の想定賃料の他に駐車場2台分及びバイ

ク置場4台分の想定賃料や想定賃料の利回りが記載されていることからすると、賃料収入

を得ることを目的として売買されたというべきである。そうすると、駐車場1にかかる内容

は、物理的に車両を置くことができる広さの場所であることではなく、駐車場として賃貸す

ることに法令上の制約がない場所であることと解すのが相当であり、誤認を生じさせるも

のであったといわざるを得ない。Y1は、本件建物を設計・建築し、駐車場1が窓先空地又

は避難経路であると認識し得た(Y1の図面には駐車場1の付近に窓先空地との記載がある)

にもかかわらず、不正確な販売広告を作成してY2に提供し、Y2がそれを転載してXに本件

土地建物の購入を勧誘していることからすると、XY1との間で不法行為が成立している。

 Y2が宅地建物取引業者であることに照らすと、本件土地建物にかかる法令上の制限につ

いて誤解を生じさせる広告をしないように注意義務があると解するべきであり、駐車場1

駐車場として使用できるか否かについて調査する義務があったというべきである。Y2は調

査することなく、漠然とY1から提供された販売広告を使用して広告を作成し、さらに駐車

2台分付きを強調しており、注意・調査義務違反としてY2の不法行為の成立は免れない。

 Y1は、窓の追加等によって窓先空地を設ける必要はなくなり、駐車場1を駐車場として

使用することに問題は生じないと主張する。しかし、Y1が販売広告を作成した時点では、

駐車場1は駐車場として使用できなかったのであり、また、現時点でも窓の追加等はされて

おらず、同主張は採用できない。

 Y2は、建築士が設計していることから、図面に疑念を差し挟むべき事情はなかったと主

張するが、建築士が設計したことは調査・確認義務を免除する理由とはならない。

 

(2)Xは、Yらが広告に記載した各室、駐車場、バイク置場の想定賃料に基づき、売買代金

に占める駐車場1の経済的価値を算出し、同額の経済的被害を被った旨の主張をする。しか

し、不動産の評価は収益のみではなく、周辺の取引事例等の要素も考慮して判断されること

や駐車場1は敷地としての価値があることからすると、駐車場としての想定賃料から駐車

1の経済的価値を算出することはできない。その他に駐車場1駐車場として使用する

ことができないことにより、Xが経済的損害を被ったと認めるに足りる的確な証拠はなく、

損害を認めることはできない。

 

(3)Xは、Yらが作成した各広告により、実際には2台分の駐車場収入を得ることができな

い物件であったのに、2台分の駐車場収入を得る可能性がある物件であることを前提に本件

売買に関する意思決定をすることとなっており、正確な情報に基づき投資判断をする機会

を失ったことについて、Yらの不法行為により精神的苦痛を被ったというべきである。また、

仮に、本件建物に窓を設置する工事をすることで駐車場1を駐車場として使用できる可能

性があるとすると同工事費用を経済的損害とみることもできることYら作成の広告が不正

確な情報が記載されたものであることを照らすと、Yらの行為からXに慰謝料請求権が発生

したと認めるのが相当である。本物件の売買代金、本件売買契約に至る経緯等の諸般の事情

を考慮すると、慰謝料額を60万円と認めるのが相当である。

 


3 まとめ

 

 本件において、仲介業者は、売主業者から受領した図面について十分な調査をせずに顧客

に紹介したことについて不法行為責任を認定されています。宅建業者が売主となっている

新築物件といえども、媒介業者としては必要な調査を行うことが求められます。