[擁壁の瑕疵の説明義務]


擁壁のひび等の隠れた瑕疵について、説明義務違反があったとして売主と仲介業者に求め

た請求が棄却された事例

 

 買主が、購入物件の敷地に係る擁壁のひび及びスラブの老朽化の隠れた瑕疵が存在した

として、主位的に、売主と仲介業者に、瑕疵に係る説明義務違反を内容とする共同不法行

為に基づき、予備的に、売主に、瑕疵担保責任に基づき、諸費用を含む購入代金と転売価

格との差額の支払を求めた事案において、買主は瑕疵が存する蓋然性について、十分な説明

を受けたものと認められるとして、請求が棄却された事例(東京地裁 平成29912

判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

 

 平成263月、買主X1(原告・個人)は仲介業者Y4(被告)と、売主Y1Y2(被告・

個人)所有の昭和45年築の建物付土地(以下「本物件」という。)を見分した。

 本物件敷地は、正方形に近い形状で、南東側及び南西側の境界部分は隣接地より高く、南

東側境界部分のうち北側約2/3には高さ1.95mのコンクリート擁壁が、南側約1/3には高

2mの石積み擁壁(以下、両擁壁を併せて「南東側擁壁」という。)が、両擁壁上部には3

段積みのコンクリートブロックがあった。なお、コンクリート擁壁の中央部には、縦に貫通

する幅約5mmの亀裂(以下「ひびA」という。)が、石積み擁壁の南端から0.5m位の位置に

は、幅約40mm、深さ400mmに達する亀裂(以下「ひびBという。)があった。

 また、南西側境界部分には高さ2.3mの石積み擁壁(以下「南西側擁壁」といい、南東側

擁壁と併せて「南側擁壁」という。)が、その上部には3段積みのコンクリートブロックと、

更に土に覆われた鋼製のデッキと支柱からなる人工地盤であるスラブがあった。

 同年4月上旬、X1X2(原告・個人)は本物件購入後、住宅建築を依頼する予定の建築会

社から、現地調査報告や南側隣地からの撮影写真の提供を受け、スラブの存在を認識し、ま

た、同じ頃、擁壁をやり直さなければならない可能性がある旨を聞いた。

 同年420日、X1らは、Y4と売側仲介業者Y3(被告)媒介のもと、次の特約が付され

た本物件の契約書及び重要事項説明書等の説明を受け、売買代金を1950万円とする売買契

約をY1らと締結した。

・建築物を建築する場合、地盤補強工事等が必要になる場合がある。同工事等を行う場合は

買主の負担と責任において行う。

・買主は、敷地と隣接地間に高低差があり、建物を再建築する場合、関係行政庁より、擁壁

工事・建物基礎工事等につき指導を受ける場合があること及び南側擁壁は検査済証が発行

されていないことを了承の上、買い受ける。

 

 同年526日までに、X1らは、本物件の引渡しを受け、同年613日までに、本物件

建物を解体撤去した。

 同年614日、X1は、敷地周辺で建築会社の到着を待っていた際、居合わせた東側隣地

所有者から、ひびBの存在を知らされ、東側隣地に立ち入り、これを目視で確認した。

 X1らは、擁壁工事会社等に依頼し、擁壁の補修とスラブ撤去費用の概算・仮見積書を出

したところ、約850万の金額であり、X1らにとって、本物件購入及び建築資金以外に追加

調達できる金額ではなかった。

 平成277月、X1らは、擁壁補修費等850万円の支払いを求め、Y1らを提訴した。な

お、平成2812月、X1らは本物件を1650万円で売却できたことから、裁判所に請求減縮

申立をし、請求額を変更し、諸費用を含む購入代金と転売価格との差額とした。

 


2 判決の要旨

 

 裁判所は、次のように判示して、X1らの請求を棄却した。

 特約によれば、敷地に関して、建築する建物との関係で強度・地耐力が不足する瑕疵のほ

か、南側擁壁につき強度ないし安全性の不足あるいは法令不適合の瑕疵が存し得ることを

あらかじめ想定し、かつ、これらの存在し得る瑕疵については、買主の負担と責任で対処す

ることとして、当事者間で、売主の担保責任免除の合意(以下「責任免除合意」という。)

がされたものと認められる。

 ひびA、ひびBとも、ひびが存する擁壁部分の崩壊の原因となり得ることを認めるに足り

る証拠はなく、むしろ、擁壁工事会社作成の概算・仮見積書での擁壁部分の補強対策の内容

が、いずれも擁壁部分の全体的補強を図るものであることから、ひびA、ひびBは、それ自

体が修補を要する独立の瑕疵というよりも、南側擁壁のうちコンクリート擁壁部分及び石

積み擁壁部分の強度ないし安全性の瑕疵に包含される事象と見るべきものであり、責任免

除合意の対象とされる南側擁壁の強度等の不足の瑕疵に該当するものと認められる。

 したがって、ひびA、ひびBは責任免除合意の効果により、瑕疵担保責任は免除され、ま

た、スラブについても、安全性等の性能に問題があるとはいえず、また、X1らが契約締結

前に、スラブの存在を認識しており、隠れた瑕疵に該当する属性を見いだせない。

 X1らは、Y1らが、ひびの存在及びスラブの老朽化について説明すべき義務を怠ったと

主張するが、責任免除合意の特約の記載によれば、X1らは、南東側擁壁を含む南側擁壁に

瑕疵が存する蓋然性について、十分な説明を受けたものと認めるのが相当であり、また、 ス

ラブについても、安全性等の性能に問題があるとはいえないことなどに鑑みると、Y1らの

説明義務違反は認めることができないというべきである。

 


3 まとめ

 

 本件では、重要事項説明書において「建物を再建築する場合、関係行政庁より、擁壁工事

等につき指導を受ける場合がある」、「擁壁は検査済証が発行されていない」等が明記されて

いたことが判決の判断材料となっており、宅建業者が擁壁のある物件を取扱う場合に参考

とすべき判例といえるでしょう。

 また、住宅建築を前提とした場合の擁壁に関する紛争においては、買主に同行した建築会

社等の調査・見解が裁判において判断の参考とされることが多いため、宅建業者においては、

極力、買主側に建築会社の同行を求めることが肝要といえるでしょう。

 なお、本件では、がけ条例については触れられていませんが、擁壁のトラブルの大半は、

がけ条例と関連しており、がけ条例の説明義務違反により、売・買の媒介業者に連帯して

2000万円強の擁壁築造費用の賠償責任が認められた判例(RETIO107-100)もあるので、参

考にしてください。