◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆

                  

[マンション分譲時の天井高の説明義務]

 

下り天井があることの説明義務を怠ったと主張する新築マンション購入者による分譲業者に

対する損害賠償請求が棄却された事例

 

 売主(新築分譲マンション業者)からマンションを購入した買主(個人)が、売買契約の

締結に当たり室内の下り天井の高さについての信義則上尽くすべき説明義務を怠ったとし

て、売主に不法行為に基づき損害賠償を求めた事案において、売主は、買主の意思決定に必

要な説明義務を果たしていたとして、買主の請求を棄却した事例(東京地裁 平成291

16日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)

 

1 事案の概要

 

 平成277月中旬完成予定の地上53階、地下2階建てのタワーマンション(本件マン

ション)の分譲業者である売主Yは、平成257月中旬、買主(個人)との間で、本件

マンション32階の一室である本件建物の売買契約(本件売買契約)を締結した。

 本件建物は2LDKの間取りで、そのうち4.5畳のベッドルーム(本件ベッドルーム)は、

床面積にして約7.3平方メートルのうちの約5.3平方メートルを占める部分の天井が下り

天井となっており、本件ベッドルームの最高天井高が約2,550ミリメートルであるのに対

して、下り天井部分の天井高は約2,150ミリメートルであった

 本件売買契約後、Xは本件マンション引渡し前の内覧会にて、初めて室内を見学した際、

本件ベットルームの天井高の低さに驚き、Yに対し、圧迫感を感じさせられるほどの重要な

事実について説明義務を怠ったと主張した。

 しかし、Yは、「Xは、売買契約の締結に当たり具体的な購入動機等を示されておらず又、

当社は、本件ベッドルームの天井に2,150ミリメートルの下り天井部分が存在することに

ついて図面にて正確な情報提供を行い、適切に説明していたことは明らかであって、何らの

説明義務違反も存在しない」と主張した。

 Xは、圧迫感を感じさせられるほどの重要な事実について、Yが本件建物の図面を含む図

面集を交付しただけで、本件ベッドルームの床面積に対して3分の2もの大部分を高さ

2,150ミリメートルの下り天井が占めることなど具体的に説明義務を怠ったことは明らか

であるとして、Yに対して、不法行為に基づき、慰謝料690万円の損害賠償を求め提訴した。

 

2 判決の要旨

 

 裁判所は、次の通り判示し、Xの請求を棄却した。

 

(1)Yは、Xがモデルルームを訪れた際に本件マンションの図面集を交付している。

 その図面集においては、天井の一部が下り天井になっている場合がある旨、冒頭の1頁目

で注意喚起するとともに、本件建物を含む各タイプの建物の平面図を各頁に掲載しており、

本件建物と同じタイプの建物については、1頁の紙面を割いて平面図を記載し、その平面図

外右下の見やすい位置に天井高表を載せて、そこに各室の最高天井高を一覧化し、「下り天

井・・部分は除く。」と付記している。

 そして、天井高表から除外された下り天井部分については、本件ベッドルームを含めて、

その範囲及び天井高を平面図上に「CH=・・・」という数値と点線の区画をもって正確に図

示している。

 加えて、Yは、本件建物購入の事前登録の申込に先立ち、Xに対し、図面集冒頭1頁の前

記注意書き部分を「必ずご一読いただき、ご理解いただきますようお願い申し上げます。」

と記載した重要事項説明の事前説明文書を交付しており、Xもこの事前説明文書の記載事項

を確認した旨を署名のうえ提出している。

 

⑵ Xの主張する圧迫感において、こうした下り天井があることによって、本件ベッドルー

ムを含めて、居宅建物としての通常の使用に支障が生じるものとは認められない

 また、上記のような圧迫感は、その感じ方に個人差があると考えられることに加えて、本

リビングダイニングルームの下り天井部分の高さも、窓際の約2,150ミリメートルの部分

を除けば、約2,250ミリメートルないし2,450ミリメートルであって、相応に圧迫感を感

じさせる可能性があることや、天井高表によれば、下り天井でない部分でも天井高が約

2,000ミリメートルないし約2,250ミリメートルの部分があることが認められることから

すると、圧迫感の程度も、本件建物全体で見れば相対的なものにすぎないといえる。

 

⑶ 以上の事情に照らせば、本件建物に下り天井部分が存在し、これにより居住者が圧迫感

を感じるようなことがあり得るからといって、それが直ちに居住者に精神的苦痛を生じさ

せるような性質、程度のものであるということはできず、そうであれば、顧客から天井高に

関する特段の要望や問い合わせ等があれば格別、そのような事情がないのであれば、下り天

井部分の範囲や高さを正確に図示した図面集を交付し、同図面集において下り天井の存在

について注意喚起するとともに、事前登録時にも改めて図面集の表記に注意を促すという

手立てを講じている本件においては、Yが、Xの意思決定に必要な正確な説明を行ったと評

価すべきである。

 

3 まとめ

 

 本件は、新築マンションの契約時未完成であった天井高において売主業者が、事前に説明

義務を果たしたか否かを争った事案です。

 契約時未完成物件では、完成された物件を見て契約するわけではないので、完成時に買主

のイメージと違ったことでトラブルが発生しやすく、このような天井高のトラブルの他に、

眺望・床フローリングや室内等の色調・階段の高低差などでトラブルが見られます。

 完成物件と顧客のイメージとの乖離を減らすには、本事案のように買主に対して、事前に

注意喚起をし、さらに書面等で丁寧に説明することが重要です。そのような面において本事

案は、新築分譲業者にとって参考となる事案と思われます。

 類似の裁判例として、「マンションの空気孔の位置が低いことが隠れた瑕疵に当たるとし

た買主のその瑕疵に対して、品質、性能を欠いていると認められず、売主に対する損害賠償

請求が棄却された事例」(東京地裁 平成21316日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)

も見られます。