◆◇◆ 最近の判例から ◆◇◆


[検査済証に係る説明義務]


建物検査済証がないことの説明義務を怠ったとして、買主が仲介業者に求めた損害賠償請

求が棄却された事例(東京地判 平28318 ウエストロー・ジャパン)

 

 買主が、仲介業者の従業員が建物検査済証を備えていない旨を説明すべき義務を怠った

ため、転売できると信じて購入したが、転売のためには建物を一旦解体した上で再建築せざ

るを得なくなったとして、仲介業者に対し、説明義務違反を理由とする損害賠償を請求した

事案において、居住用としか聞いていない仲介業者は、居住目的の購入に照らしては必要か

つ十分な説明をしたとして、その請求が棄却された事例

 

1 事案の概要

 

 平成17年8月21日、買主X(原告)は、中古建物の売買契約に先立って、媒介を依頼し

た仲介業者Y1(被告)の従業員Aと売側仲介業者Y2(被告)の従業員Bから、重要事項

の説明を受け、重要事項説明書に署名押印した。


 本建物は、平成6年1月に建築された木造スレート葺2階建の建物で、平成5年11月4

日に建築確認を受け、建築確認通知書を取得していたが、検査済証は取得していなかった。


 なお、Xは、本建物を居住目的で購入しており、AとBに転売目的で購入する旨を述べた

ことはなく、また、AとBは、Xへの説明に当たり、本建物は検査済証の交付を受けていな

いことを説明したことはなかった。


 同月24日、Xは、2520万円で本建物を現金で購入する旨の売買契約を締結した。


 同月30日、Xは本建物の引渡しを受け、Y1に仲介手数料85円余を支払った。


 平成25年1月、Xは、Y2との間で、売出価格2350万円として本建物売却の媒介契約を

締結し、更に同年9月、売出価格を2150万円に下げ、媒介契約を更新したが、契約成立に

は至らなかった。


 平成26年6月、Xは、別の宅建業者Cと売出価格1980万円で媒介契約を締結したが、契

約成立には至らず、更に売出価格を1780万円に下げ、媒介契約を更新したが、契約成立に

は至らなかったため、XとCは同年10月、同媒介契約を合意解除した。


 同年1225日、Xは、転売のためには建物を一旦解体した上で再建築せざるを得なく

なったとして、工務店作成の建築確認図面どおりに再建築した場合の見積をもとに、Y1ら

に、合計2385万円余の支払いを求め提訴した。

 

2 判決の要旨

 

 裁判所は、次のように判示して、XのY1らに対する請求を棄却した。

 

 宅建業者は、宅建業法上、宅地及び建物の購入者等の利益の保護のために、取引の関係者

に対し、信義を旨として、誠実に業務を行う責務を負うものである。(同法1条、31条1項)、

また、同法35条は、建築基準法その他の法令に基づく制限を含め、重要事項の説明義務を

規定しているが、同条の「少なくとも」の文言から、同条の重要事項は調査説明すべき最低

限の事項を定めたものにすぎず、宅建業者は、同条の重要事項のほか、買主の購入目的に照

らして、買主にとって売買契約を締結するか否かを決定付けるような重要な事実であるこ

とを認識し、かつ、当該事実の有無を知った場合には、信義則上、当該事実を買主に説明す

る義務を負う場合があると解されるので、本件において本建物の検査済証の有無を説明す

ることが、この義務にあたるかを検討する。

 

 Xは重要事項の説明を受けた際、転売目的で購入する旨を述べたことはないため、AとB

は、売買契約締結に当たり、Xは居住用としての購入であり、また、住宅ローンを利用しな

いと認識し、その認識を前提として重要事項の説明を行ったことが認められる。

 その説明内容は、第三者による占有の有無、抵当権の有無・抹消の可否、建築基準法その

他の法令による制限の有無(建ぺい率、容積率は法令に基づく制限内であることを含む)、

敷地と道路の関係、ガス・電気の上下水道の供給・整備状況等であり、居住用として購入す

るというXの購入目的に照らして必要かつ十分な内容であったと認められるから、本建物

の検査済証の有無について説明を行わなかったことをもって、AとBに説明義務違反があ

ったということはできない。


 Xは、検査済証を備えていない建物は、建築基準法等に適合しない違法建築物であるおそ

れがあるため、住宅ローンの利用や転売が著しく困難であるから、宅建業者は検査済証の有

無を必ず説明すべきと解さなければ、消費者保護に著しく欠ける結果になると主張するが、

Xが本建物に居住した約7年半、居住の支障となるような瑕疵は存在しなかったと推認で

きるとともに、検査済証を未取得の建築物が直ちに違法建築物とはいえないことから、Aと

Bは、Xに本建物は検査済証を取得しておらず、違法建築物であるおそれがあることを具体

的に説明すべき義務を負わない。


 住宅ローンの利用についても、フラット35や他の中古物件向けの住宅ローンも必ずしも

検査済証の有無を融資条件としておらず、また、Y2媒介の中古物件では、検査済証が未取

得でも住宅ローンを利用した事例が複数あることから、検査済証を備えていない建物は、住

宅ローンの利用が著しく困難であるとまでは直ちに認め難く、AとBは、Xに検査済証を取

得していない本建物は住宅ローンを利用できないおそれがあるため、転売に困難を生じる

可能性もあることなどを具体的に説明すべき義務を負わない。以上から、AとBの説明義務

違反を理由とする不法行為は成立しないから、Y1らの使用者責任は成立しない。

 

3 まとめ

 

 本件の契約当時は、検査済証の有無の説明は宅建業法第35条1項の説明事項とはされて

いないため、本件では、購入目的に照らして売買契約を締結するか否かを決定付けるような

重要な事実であるか、かつ、仲介業者が有無を知っていたかを判断基準とし、居住用として

は必要・十分な説明があったとして、原告の請求が棄却されたが、本件建物で検査済証が取

得されなかったのは、建築確認申請では2階が2室+納戸であるものが、現況では納戸が居

室に代わり、各室の位置も変わっているためではないかと思われ、宅建業者は建築の専門家

ではないものの、違反建築の可能性について説明しておくとよかったのではないかと思わ

れます。


 なお、平成30年4月1日の宅建業法改正により、既存の建物である場合は確認済証並び

に検査済証の保存の状況を説明することが義務付けられており、宅建業者は、検査済証等の

有無の確認・記載漏れは、同法第35条違反となることに留意する必要があります。