[耐用年数を経過した壁クロスの原状回復費用]

耐用年数を経過する壁クロス張替費用等の原状回復義務はないとした賃借人の主張が否定

された事例(東京地判 平281220 ウエストロー・ジャパン) 

 賃貸アパートを退去した賃借人が賃貸人に敷金返還を求めて提訴した事案において、賃

借人は善管注意義務に反して物件を使用し、その使用状態のまま物件を明け渡したと認め

られ、賃借人には敷金額以上の原状回復費用負担義務があるとして、敷金返還請求が棄却さ

れた事例(東京地裁 平成281220日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)

1 事案の概要

 賃借人Xは、平成1912月、賃貸人Yからアパートの1室を借り受け、8年間居住後の

平成2818日に本件物件を退去した。

<本件契約の主な概要>

 貸室:40平米

 賃料:105,000円/月

 敷金:105,000

 Yが、原状回復費用186,015円(税込)及び未払日割家賃28,000円の計214,015円と敷

金との差額(不足額)109,015円の支払をXに請求したが、Xは、敷金から控除できる金額

6,902円しかないとして、差額98,098円の敷金返還を求めて本件訴えを提起した。

[賃借人Xの主張]

(1)ハウスクリーニング費用は賃貸人が通常負担すべきものであり、本件賃貸借契約にお

いて賃借人負担の特約も存在しない。

(2)「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、壁クロスの耐用年数は6年で

あり、本件物件明渡しの時点での価値は0円または1円である。

(3)Yが主張する各種傷破れや雑誌の張り付きは存在しないか、通常損耗である。

(4)Y側の都合で退去日が翌月8日に越月したものであり、日割家賃は発生しない。

[賃貸人Yの請求内容]

(1)ハウスクリーニング費用48,000円 

  Xによる本件物件の使用態様は劣悪で、原状回復に要した費用は20万円相当であり、

  少なくとも約4分の1に当たる48,000円を負担すべきである

(2)壁クロス張替費用 計34,637

  居室・トイレに多数の傷破れ・汚れがあり、少なくとも修繕費用の半額を負担すべきで

  ある。

(3)床クッション材張替費用 計35,000

  長年放置されて剥がすのが困難な雑誌の張り付きや焼け焦げが広く多数あり、修繕費

  用の10分の1を負担すべきである。

(4)その他 計54,600

  流し台引出し・浴室ドアの破損による交換代の一部、エアコン残置物撤去費用等

(5)退去日までの未払い日割り家賃 28,000円(1/11/88日間)

2 判決の要旨

 裁判所は、Xには少なくとも敷金額以上の原状回復費用負担義務があると判示して、X

敷金返還請求を棄却した。

(1)ハウスクリーニング費用について

 証拠写真によれば、居室内は著しく汚れが目立ち、Xは賃借人としての善管注意義務に反

して本件物件を使用しており、その使用状態のまま本件物件を明け渡したと認められる。

 Xが善管注意義務を尽くしていればハウスクリーニングが必須だったとは解されないと

ころ、新たな賃借人に賃借するためにYとしてはハウスクリーニングを実施せざるを得ず、

少なくとも7万円程度の費用がかかることが認められ、ハウスクリーニングの実施によっ

て、Xが善管注意義務を尽くしていた場合よりも良い状態になる部分があり得ること、及び、

ワックス仕上げの費用まで含まれていることを考慮しても、上記費用の内48000円を原

状回復義務の不履行に基づく原状回復費用として認めることは相当である。

⑵ 壁クロス張替費用

 Xは、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、壁クロスの耐用

年数は6年とされ、本物件における残存価値は最大で1円であると主張するが、仮に耐用

年数を経過していても賃借人が善管注意義務を尽くしていれば、張替えは必須ではなかっ

た。

 当該ガイドラインによっても「経過年数を超えた設備等を含む賃借物件であっても、賃借

人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、

そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となること

があり得る」とされている。

 台所の壁クロスの張替えには、少なくとも17000円程度の費用が掛かり、その半額で

ある8500円を原状回復義務の不履行に基づく原状回復費用として認めることは相当である。

(3)その他の費用

 床の雑誌の張り付きや汚れ、流し台引出しや浴室ドアの破損についても賃借人としての

善管注意義務違反が認められ、通常損耗であるとのXの主張は採用できない。ハウスクリー

ニング及び壁クロスの張替えと同様に、仮にこれらが耐用年数を経過していたとしても、賃

借人が善管注意義務を尽くしていれば交換を行う必要はなかったものであり、これらに対

する費用総額96000円の内、52000円を原状回復義務の不履行に基づく原状回復費用

として認めることは相当である。

(4)結論

 以上によれば、XYに対し、原状回復義務の不履行に基づく原状回復費用として少なくとも

117180円(108500円× 1.08)の支払義務を負い、その他の原状回復費用及び日割家賃を

検討するまでもなく、Yに本件賃貸借契約の終了に伴う敷金返還義務はない。

3 まとめ

 本事案は、室内の壁や床、設備の汚損・破損が著しく、その使用状態のまま物件を明け渡

したことが賃借人としての善管注意義務を果たしていなかったと判断された事案です。

 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)P12では、法定耐用年数を基

にした経過年数による減価割合の考え方を示す一方で、経過年数を超えた設備等であって

も、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故

意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備として

本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すため

の費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担になることがある」とされてい

ます。

 本裁判例はこの点に直接的に言及したものとして実務上の参考にります。