[耐用年数を経過した壁クロスの原状回復費用]
耐用年数を経過する壁クロス張替費用等の原状回復義務はないとし
された事例(東京地判 平28・12・20 ウエストロー・ジャパン)
賃貸アパートを退去した賃借人が賃貸人に敷金返還を求めて提訴し
借人は善管注意義務に反して物件を使用し、
られ、
れた事例(東京地裁 平成28年12月20日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
賃借人Xは、平成19年12月、賃貸人Yからアパートの1室を借
平成28年1月8日に本件物件を退去した。
<本件契約の主な概要>
貸室:40平米
賃料:105,000円/月
敷金:105,000円
Yが、原状回復費用186,015円(税込)及び未払日割家賃2
金との差額(不足額)109,015円の支払をXに請求したが、
は6,902円しかないとして、差額98,098円の敷金返還を
[賃借人Xの主張]
(1)ハウスクリーニング費用は賃貸人が通常負担すべきものであ
いて賃借人負担の特約も存在しない。
(2)「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、
あり、本件物件明渡しの時点での価値は0円または1円である。
(3)Yが主張する各種傷破れや雑誌の張り付きは存在しないか、
(4)Y側の都合で退去日が翌月8日に越月したものであり、
[賃貸人Yの請求内容]
(1)ハウスクリーニング費用48,000円
Xによる本件物件の使用態様は劣悪で、原状回復に要した費用は2
少なくとも約4分の1に当たる48,000円を負担すべきである
(2)壁クロス張替費用 計34,637円
居室・トイレに多数の傷破れ・汚れがあり、
ある。
(3)床クッション材張替費用 計35,000円
長年放置されて剥がすのが困難な雑誌の張り付きや焼け焦げが広く
用の10分の1を負担すべきである。
(4)その他 計54,600円
流し台引出し・浴室ドアの破損による交換代の一部、
(5)退去日までの未払い日割り家賃 28,000円(1/1〜1/8の8日間)
2 判決の要旨
裁判所は、Xには少なくとも敷金額以上の原状回復費用負担義務が
敷金返還請求を棄却した。
(1)ハウスクリーニング費用について
証拠写真によれば、居室内は著しく汚れが目立ち、Xは賃借人とし
して本件物件を使用しており、
Xが善管注意義務を尽くしていればハウスクリーニングが必須だっ
ころ、新たな賃借人に賃借するためにYとしてはハウスクリーニン
少なくとも7万円程度の費用がかかることが認められ、
て、Xが善管注意義務を尽くしていた場合よりも良い状態になる部
⑵ 壁クロス張替費用
Xは、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
年数は6年とされ、本物件における残存価値は最大で1円であると
年数を経過していても賃借人が善管注意義務を尽くしていれば、
た。
当該ガイドラインによっても「
人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っているこ
そのため、経過年数を超えた設備等であっても、
があり得る」とされている。
台所の壁クロスの張替えには、少なくとも1万7000円程度の費
ある8500円を原状回復義務の不履行に基づく原状回復費用とし
(3)その他の費用
床の雑誌の張り付きや汚れ、
善管注意義務違反が認められ、通常損耗であるとのXの主張は採用
ニング及び壁クロスの張替えと同様に、
借人が善管注意義務を尽くしていれば交換を行う必要はなかったも
する費用総額9万6000円の内、5万2000円を原状回復義務
として認めることは相当である。
(4)結論
以上によれば、XはYに対し、
3 まとめ
本事案は、室内の壁や床、設備の汚損・破損が著しく、
したことが賃借人としての善管注意義務を果たしていなかったと判
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)P12」
にした経過年数による減価割合の考え方を示す一方で、
も、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、
意・過失により設備等を破損し、
本来機能していた状態まで戻す、例えば、
の費用(工事費や人件費等)などについては、
ます。
本裁判例はこの点に直接的に言及したものとして実務上の参考にな